さぁ、始めよう。

逃げ場のない町とは

日本の沿岸地域には、地震や津波だけではなく、地形・産業・道路・人口構造・歴史的経緯が複雑に絡み合うことで、災害時に「逃げられない町」となってしまう場所があります。

こうした地域では、一つの災害ではなく、複数の災害が同時に重なる「複合災害」が発生し、避難・救助・生活再建が極めて困難になります。私たちはこのような地域を、瀬戸内防災ラボでは「逃げ場のない町」と呼んでいます。

「逃げ場のない町」が生まれる5つの条件

逃げ場のない町は、偶然生まれるわけではありません。次のような条件が重なったときに、その地域は大地震に対して極めて脆弱になります。

① 地形(低地・干拓地・海抜0メートル地帯)

・海抜が低い、または干拓地・埋立地である
・地盤が柔らかく、地震時に液状化が起こりやすい
・津波が湾奥まで入り込みやすい地形になっている
・徒歩で行ける高台や安全な避難所がほとんどない

これらが重なると、揺れた瞬間から避難そのものが難しくなるという問題が生まれます。

② 産業構造(工場・コンビナート・危険物施設)

沿岸部には工場やコンビナート、タンク、配管、港湾施設など、危険物を扱う設備が集中しやすくなります。大地震の際には次のような事態が想定されます。

  • 危険物・化学物質の漏洩
  • 石油・ガスの大規模火災
  • 有害ガスの放出・滞留
  • 油流出による港湾火災

単純に「高台に逃げれば良い」という問題ではなくなり、どこに逃げるのが安全なのか判断が非常に難しくなるのが特徴です。

③ 道路・交通が限られている

・出入りできる道路が少ない、実質的に一本しかない
・工場や港湾、線路によって生活道路が分断されている
・液状化や陥没で主要道路が通行不能になりやすい
・危険物災害により「立入禁止区域」が広がる可能性がある

その結果として、避難ルート=生活道路しかなく、その道路が使えなくなると本当に逃げ場がなくなる構造が生まれます。

④ 歴史(過去の災害・干拓・地形改変の記録)

逃げ場のない町には、多くの場合、次のような歴史的背景があります。

  • 安政南海地震・昭和南海地震で津波・浸水・地盤沈下の記録がある
  • 江戸時代以降の干拓や埋立によってできた土地である
  • 工場建設時に大規模な埋立・掘削が行われている
  • 過去に油流出や工場火災などの産業災害が起きている

歴史を辿ることは、その土地が元々どれだけ脆弱だったかを知る手がかりになります。

⑤ 避難所が少ない/遠い + 高齢化した人口構造

・指定避難所そのものが危険区域にある
・徒歩で安全に到達できる高台・避難場所がほとんどない
・地域に高齢者が多く、車がなければ移動できない人が多い
・夜間・悪天候時の避難が現実的でない

このような条件が揃うと、「ハザードマップ上では避難可能」と書かれていても、現実には避難計画が機能しない町になってしまいます。

倉敷市水島・児島地域に見る「逃げ場のない町」の構造

倉敷市水島・児島地域は、日本の中でも複合災害のリスクが非常に高い地域のひとつです。

  • 高梁川の土砂で形成された広大な干拓地である
  • 海抜が低く、地盤が柔らかいため液状化が起こりやすい
  • 津波が児島湾から湾奥まで入り込みやすい地形になっている
  • 近接する水島コンビナートに石油・化学プラントが集積している
  • 過去に三菱石油タンク事故により大量の油が流出した事例がある
  • 徒歩で到達できる高台がなく、避難所の選択肢が極めて少ない
  • 道路が限られており、地震や火災で通行不能になる可能性が高い

一つひとつを見れば「どこにでもあるリスク」に見えますが、これらが同時に重なることで、「逃げようとしても逃げ切れない町」になっています。

これは倉敷市水島・児島地域だけの問題ではありません

倉敷市水島・児島地域のような構造は、日本各地の沿岸工業地帯・干拓地にも見られます。

たとえば、次のような地域にも同じようなリスクの組み合わせが存在します。

  • 千葉県 市原・袖ケ浦(京葉臨海コンビナート)
  • 神奈川県 川崎・横浜臨海部
  • 三重県 四日市周辺
  • 北海道 苫小牧
  • 福岡県 北九州・若松
  • 広島県 福山周辺 など

つまり、「逃げ場のない町」とは特定の一地域だけの話ではなく、日本の沿岸都市が共通して抱えている構造的な問題だと言えます。

だからこそ、「生活再建まで含めた防災」が必要です

逃げ場のない町では、「どう避難するか」だけではなく、「避難した後、どこでどう暮らしていくのか」までを考える必要があります。

・自宅に長期間戻れないかもしれない
・仕事やお店を続けられないかもしれない
・地域そのものが立入禁止区域になるかもしれない

こうした現実を見据えた上で、個人や家族単位で「生活再建のシナリオ」を持っておくことが、これからの防災には欠かせません。

瀬戸内防災ラボでは、そのためのツールとして個人用BCP(Personal BCP)や、ワークショップ・講座をご用意しています。